牙を失っても、噛み付けるだろ

丸谷の手記

友人の誘いで登別マリンパークニクス(水族館)に行って来た。

駐車場代500円+入園料2600円で合計3100円。

決して安くは無いチケットを片手に園内を散策。

早速、水槽内で優雅に泳ぐ魚達を発見。

 

おいおい何だこの数は。いくらなんでも捕まえ過ぎだ。

どうりで釣りに行っても釣れないわけだ。ここに全部居たのだから。

「ふん。この負け組共が」

魚に暴言を吐き散らかし、水槽に背を向ける。

 

そして次に向かったのはアシカのショー。

どうやら「アシカ」という生き物が芸を披露するみたいだ。

 

アシカ「オッwwwwオッwwwwオッwwww」

 

観客「わはははは!!ブラボー!!!」

 

アシカ「オッwwwwオッwwwwオッwwww」

 

俺「狂ってやがる…」

野生としての牙を抜かれた哀れな生き物達は人間に媚びを諂い、飼い慣らされ、今日もまた腐りながら生きていくのだろう。

そして芸を披露するたびに与えられる魚。

さっき我々が水槽の中で見て感動していたばかりだと言うのに、もう忘れていやがる。

アシカもアシカだが、客も客だ。

アフリカの子供達が飢餓に苦しむ映像を見て涙を流す我々も、次の日には当たり前のように食べ物を残す。

一時の感情に振り回される、せわしない生き物だよ。人間というのも。

俺がさっき負け組と罵った魚達の方がよっぽどマシじゃないか。

そんな事を考えながら、ショーの途中で1人席を立ち外へ出ると、

ここにも牙を失った哀れな生き物達が見せ物にされていた。

天を仰ぎ、空ばかり見つめるペンギン。

「自由に空を飛べれば、今すぐにでもここを抜け出せられるというのに」

そんな心の声が聞こえた気がした。

その無理やり歩かされている人工芝生は、南極の氷よりも暖かいのだろうか?冷たいのだろうか?

いつの時代も弱者は従い、強者は笑う。

弱いままじゃダメだ。強くならなきゃ。

どこへ行ったって、いくつになったって、牙を失うな。

弱いままで何か得したか?強くなる理由しかもう残っていないだろう。

気付けば俺はペンギンに向かって叫んでいた。

「このままでいいのかよ!?一生鎖に繋がれたままで!?お前らの故郷、南極の氷が溶け始めているのも俺たち人間のせいなんだぞ!」

やめてくださいと、スタッフに取り押さえられる俺。

それでも俺は必死に抵抗した。

俺はまだ牙を失っちゃいないからだ。

「今だ!逃げろ!お前らの未来はお前らの手で掴むんだよ!」

ペンギンが一斉に走り出し、退化した翼を広げ空を飛んだ。

唖然とするスタッフ。

無線で徐々に集まる警備員。

俺は地面に押さえつけられながら、笑った。

この世に生を受けたその瞬間から、我々は”自由”なんだ。人とか動物とか、男とか女とか、そんなのは関係ない。生きとし生けるもの全てだ。

アシカのショーを観ていた友人が戻って来て、スタッフ・警備員を一掃。

俺と友人はその水族館を後にした。

その後、ペンギン達がどうなったのかは知らない。

例え捕まったとしてもアイツらならもう大丈夫。一度取り戻した牙は簡単に折れない。

レッドブルなんか無くたってお前らにはもう、立派な翼があるじゃねーか。

翔べ。自由はすぐそこだ。

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